小林研の研究分野
小林研の研究分野は主に 3 つの分野: オペレーションズ・リサーチ, 数理最適化, 機械学習で構成されます. ただしこれらの研究分野はそもそも互いに関連が深いものであり, 小林研ではこれらの分野を横断的に研究を進めているというのが実情です. 以下ではそれぞれの研究分野について簡単に説明し, 小林の最近の研究成果についても紹介します.
オペレーションズ・リサーチ
オペレーションズ・リサーチ (Operations Research; OR) とは, 社会で現れる様々な意思決定問題に対して, 数理的なアプローチで合理的な解決策を求めることを目指す研究分野です. OR における 「オペレーション」 はもともと軍事作戦を指す言葉で, 第二次世界大戦における軍事作戦の立案に数理的な分析を導入したことをきっかけとして OR の研究は生まれました. 現在では企業や公的機関の意思決定において, 問題解決のための科学的手法として OR は広く利用されています. 後述する数理最適化は OR の一分野として研究されてきた歴史があり, 近年では深層学習をはじめとする機械学習の技術を OR に活用する研究も盛んに行われています.
数理最適化
制約を満たす解の中で目的関数の値を最小化または最大化する問題を最適化問題 (あるいは数理最適化問題) といいます. 例えば電車の乗り換え検索で所要時間が最も短い経路を見つける問題などは数理最適化問題の一つです. このような最適化問題を解く数理的手法の総称を数理最適化といい, 数理最適化の研究では数学と計算機を駆使して, より広範な最適化問題を・より高速に解くための手法を開発することを目指します. OR に限らず工学の様々な分野では最適化問題を解きたいニーズが存在するため, 数理最適化は工学分野を支える一つの基盤技術とみなすこともできます.
機械学習
知的処理を計算機で行うことを目指して, 大量のデータからパターンや法則性を計算機に学習させることを機械学習といいます. データから有用な知見を得ようとする点で, 機械学習は統計学やパターン認識, 人工知能などの分野と密接に関連しています. また, データに対して当てはまりのよいモデルを構築することは最適化問題を解くことに他ならないため, 機械学習は数理最適化の応用分野の一つでもあります. 計算機の性能が向上したこと, データの蓄積が容易になったことから深層学習をはじめとする機械学習の技術は近年急速に発展し, 我々の生活にも大きく影響を与えるようになりました.
最近の研究トピック
混合整数半正定値最適化問題
混合整数半正定値最適化問題 (Mixed-Integer Semidefinite Programming; MISDP) とは, 変数で構成される対称行列が半正定値行列であるという制約と, 一部の変数が整数値をとるという制約をもつ最適化問題のことを指します. 整数性は離散的な意思決定を表現でき, また半正定値制約は多様な非線形性を表現できるため, 様々な分野で現れる最適化問題は MISDP として定式化できるという特徴があります.
小林は MISDP の解法の研究に取り組んでおり, MISDP の標準形を解く汎用解法や, MISDP として定式化される特定の問題に特化した専用解法の研究に取り組んでいます. 後者の専用解法の研究では, 金融工学の分野で現れるポートフォリオ最適化問題に着目し, MISDP として定式化されるポートフォリオ最適化問題を解く高速な解法を設計しました. 混合整数半正定値最適化問題に関する小林の研究成果は以下の論文にまとめられています:
- K. Kobayashi and Y. Takano: A branch-and-cut algorithm for solving mixed-integer semidefinite optimization problems. Computational Optimization and Applications, 75 (2020), 493–513.
- K. Kobayashi, Y. Takano, and K. Nakata: Cardinality-constrained distributionally robust portfolio optimization. European Journal of Operational Research, 309 (2023), 1173–1182.
反実仮想説明 (アルゴリズム的償還)
機械学習の技術が目覚ましく進展したことに伴って, 機械学習を用いた予測モデルは我々の生活の様々な場面で利用されるようになりました. しかし, 現在利用される予測モデルは入出力関係が複雑で, 予測のプロセスや出力の根拠を直観的に解釈することはしばしば困難です. このような背景から, 複雑な予測モデルは我々の生活に予期せぬリスクをもたらすのではないか? という社会的な不安が高まっています.
反実仮想説明 (最近ではアルゴリズム的償還ともいう) とは, 予測モデルの解釈性を高めるための手法の一つです. 反実仮想説明では, 「入力をどのように変化させたら望ましい予測結果が得られるか?」という問題を考え, 望ましい予測結果を得るために必要な入力の変化量 (摂動) を求めます. 反実仮想説明で求める摂動は望ましい予測結果を得るために必要な行動として解釈できるため, 予測結果に対する建設的な付加情報とみなせます. これまで小林は反実仮想説明の研究として, ユーザにとって実現性の高い摂動を求める研究などに取り組みました:
- S. Yamao, K. Kobayashi, K. Kanamori, T. Takagi, Y. Ike, and K. Nakata: Distribution-aligned sequential counterfactual explanation with local outlier factor. Proceedings of the 21st Pacific Rim International Conference on Artificial Intelligence, (2024), 243–256.
- K. Kanamori, T. Takagi, K. Kobayashi, and H. Arimura: DACE: Distribution-aware counterfactual explanation by mixed-integer linear optimization. Proceedings of the 29th International Joint Conference on Artificial Intelligence, 29 (2020), 2855–2862.